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吉祥寺週3ベーカリー「2PaPas sometimes a girl」は営業終了。調布市で「MUCHAMIの小さなパン教室」を行う。不定期のパンイベント(押上・ししまる食堂、両国・青空市ヤッチャバなど)では、パン教室Atelier Rとのコラボベーカリー「Ra+Ra BAKERY(ララベーカリー)」の名で活動中。

by 2papas_girl

ブックレビュー6

蒼いみち/小澤征良著

 すっと世界の扉が開く清々しさ。ばらばらに点在していた何かが弧を描いて浮かび上がるまばゆさ。(偉大な音楽家を父に持つ著者らしく)一つの音楽が流れるように、成長と自由の物語は時にリズミカルに、時に滑らかに奏でられる。

 アパレル関係の会社で働く励奈はどちらかというと優等生のごく普通の女の子だが、心の奥の方にはでいつも小さな違和感を抱えて過ごしている。「まわりの人たちが進んでいるのに、蠢く世界のなかで自分だけが止まってしまったような」「自分が存在していると思い込んでいるのは私だけで、実は自分はここに存在していないかのような」感覚。世界と自分との間にある、見えない膜のような存在に対するある種の執着心は自由への渇望に他ならない。自由であることは世界に向けて自分が「開かれている」ことだ。

 ここでは間違ってかけた一本の電話が、決して直接的ではなく巡り巡って彼女の未来を動かす要因となる。ばらばらの断片を繋ぐきっかけはなんて唐突に現れるのだろう。近しい誰かや何かとの直接的な関係の中からだけではなく、他人の残したものや実際には振れられない本の中の世界ともこうやって関係していける。それはとても希望に満ちた、豊かなことだ。私達はいま、ちゃんと「開かれて」いるだろうか。〈A〉
by 2papas_girl | 2013-07-01 22:10 |